第18回公演
『キラー・ジョー』
インタビュー
演出:シライケイタ
本作『キラー・ジョー』は、2019年3月 劇団俳小にてシライケイタ演出で『殺し屋ジョー』として日本初演され、大きな話題を呼んだ。その際の演出が評価され、その年の読売演劇大賞上半期演出家賞ベスト5にシライが選出されている。
今回は上演台本も手掛け、新たな演出・キャストでの上演に挑む。
--『キラー・ジョー』を初めて読んだときの感想や本作の魅力を教えてください。また、再演にあたって作品の印象が変わったことがあれば教えてください。
初めて読んだときはぶったまげました。こんなハードな作品あるんだって。一見、性描写や暴力シーンが際立って見えるけれど、なぜこの作品の登場人物はそういった境遇に身を置くことになったのか、その理由を考えてみると、現在世界を覆っている猛烈な格差社会、そしてその社会での厭世的な人々の生き方というものが浮き彫りになってきます。直接的に社会問題や政治を描かずに、社会の底辺を生きる人間たちを描くことで世界の問題を炙り出そうとしている、そこがこの作品の最大の魅力だと思いました。
再演にあたって印象が変わったと言えば、今回かなり細かく原文にあたって上演台本を作りました。もちろん吉原先生の翻訳に最大限の敬意を持って取り組ませていただいていますが、原文に直接触れたことで、作家が描こうとしている世界観が初演時よりも明確に伝わってきたという感覚があります。健全なコミュニケーションが苦手な登場人物たちで、みんな人の話を聞こうとせず、人が話している途中から割って入ったり、ほとんど意味の無いことをだらだら話したり、そういう空気をふんだんに描いている。今回は演出でもその辺りを意識して作っています。
--再演にあたっての想いなどをお聞かせいただけますでしょうか。
前回をはるかに超えるエネルギーとパワーで劇場を覆いつくしたいと思っています。初演から五年も経っているのに、日本では僕以外誰も演出していない作品ですからね、前例も無く参考にできる上演も無いので、それならそれを逆手にとってやりたい放題、精一杯やろうと思います。
--稽古はどんなかんじでしたか?また、稽古中で印象に残っていることがあれば教えてください。
キャストとスタッフが一丸となって、妥協なく作品に立ち向かった最高の稽古場でした。劇団の規模は小さいですが、間違いなくハイクオリティの作品が出来上がったと思っています。
役者とスタッフが諦めずにチャレンジをし続けた姿が最も印象に残っています。
--演出とは別に上演台本も担当されていますが、つくる中で大切にされたことは?
もの凄く汚い英語やスラングが多いので台本作りはとても難しかったのですが、出来る限り自然な日本語を心がけました。また、ほとんど意味のないと思われる会話や、かみ合わない会話も多く、それをそのまま日本語にすることはとても勇気がいることでしたが、なるべく作家の描こうとしている世界観を壊さないように心がけました。
--あなたにとって温泉ドラゴンとは?
家族。兄弟。30代半ばを過ぎて、僕は新たな家族を手に入れたのでした。
--最後に公演を心待ちにしている皆さんにメッセージをお願いします。
間違いなく、「こんな作品見たことない」という体験になると思います。演劇の持つ可能性とパワーを信じ、最大出力でお届けいたします。どうぞご期待ください。
シライケイタ
劇団温泉ドラゴン代表。98年に蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」で俳優デビュー。11年より劇作と演出を開始。社会的なテーマのオリジナル作品から、映画や小説の舞台化まで幅広い創作活動を行う。15年、韓国密陽演劇祭で戯曲賞。18年、第25回読売演劇大賞杉村春子賞。日本演出者協会理事長。日韓演劇交流センター会長。座・高円寺芸術監督